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この記事の概要
まずは不動産賃貸仲介の仕組みについてまとめていきます。
お部屋の賃貸仲介の依頼方法には大きく分けて「専任媒介契約」と「一般媒介契約」があります。専任媒介は特定の不動産会社一社のみに仲介を依頼する契約形態で、一般媒介は複数の不動産会社に仲介を依頼することができる契約形態です。
不動産会社に1棟の管理業務を頼んでいる状態というのは、お部屋の賃貸仲介に関してもその不動産会社と専任媒介契約を結んでいるのが一般的です。その場合は、入居者との賃貸借契約時には必ずその不動産会社が「元付け」と呼ばれるオーナー側の仲介会社になります。管理をどこにも委託しておらず自主管理している場合は、お部屋の賃貸仲介だけを不動産会社に依頼することになります。一つの不動産会社に限定して依頼している場合は基本的に専任媒介で、複数の不動産会社に依頼している場合は一般媒介となります。
それでは、専任媒介と一般媒介の一般的なメリット・デメリットを考えてみましょう。専任媒介の場合は、信頼できる不動産会社と一対一のパートナーとなるため、募集に関するあらゆることを相談しながら進めることができ、入居者が決まらない場合は対策を提案してもらえるというメリットがあります。しかし一方で、空室期間が長くなったり、パートナーを組んだ会社とあまりうまくいかない場合、他の不動産会社に依頼したくてもできないということが起こります。一般媒介は複数の会社に依頼することができますので、それぞれの会社が入居者募集を行いますが、どこか一社が責任をもって募集してくれるというわけではないので、なかなか入居者が決まらない場合にはオーナー自身が対策を立てて、状況を改善していく必要が出てきます。
たくさんの物件がある中で、「自分の物件を優先して決めて欲しい」というのはオーナーとして当然の願いですが、不動産会社側は優先順位についてどう考えているのでしょうか。
せっかく媒介契約を結んでいるのですから、気持ちとしては専任媒介も一般媒介も分け隔てなく対応したいところです。しかし、心理としてはやはり専任媒介物件を「優先して決める必要がある」と考える会社が多いと思います。オーナーと一対一のパートナーになっていますので、空室が続くと「早く入居者を決めなければ」という責任が重くのしかかります。しかも、その後の管理のことや、オーナーとの関係を考えると、なるべく質の良い入居者を決めなければならないと考えます。
一方で、専任媒介を不動産業者側に都合よく考えると「自分たちがすぐに入居者を決められなくても他社に仕事を取られず、いつか必ず手数料がもらえる」という状況であるとも言えます。オーナー側も、依頼したならば問い合わせやご案内の状況をこまめに確認し、状況が思わしくなければ対策を話し合うなどして密に連携を図っていく必要があるでしょう。
一般媒介の場合はどうでしょうか。みなさんがもし仲介営業担当者の立場だったとしたら、どういう物件を優先してご案内しようと思いますか?「案内したら即決まりそうな物件」ではないでしょうか。一般媒介は自社以外にも複数の不動産会社が依頼を受けていますので、客付けはヨーイドン!早い者勝ちです。優秀な仲介営業担当者は周辺で今募集中の賃貸物件の情報を良く知っていますので、他社に取られてしまいそうな物件は「自分が決めたいから早めに頑張ろう」となると思います。
残念なのはその逆の「案内してもなかなか決まりそうにない物件」です。一般媒介契約を結んでいたとしても「他社にも依頼されているし、自分たちがすぐに決められなくても責任はない」と考えるかもしれません。仲介営業担当者が競い合って決めてくれるのか、消極的になるのか。ここには大きな差があります。
仲介店舗に初めてのオーナーが突然お見えになり「空室があるから募集して欲しい」と言われることがあります。募集できる物件が増えることはもちろん嬉しいのですが、初めての物件を募集するのは案外手間がかかります。
募集広告の方法については、景品表示法や不動産公正取引協議会で細かく定められています。昨今ではおとり広告防止のためにルールがとても厳しくなり、間違った情報を掲載してしまうと罰則があるため、仲介業者は正確な情報を把握しなければなりません。
オーナーから正確な情報を頂けるととても助かりますが、稀に「資料はないからとりあえず現地を見てよ」などと言われることもあり、それが繁忙期だと正直なところ負担に感じることもあります。それでもお引き受けしたからには急がなければなりませんので、業務の合間を縫って現地調査や間取り図の作成などを行います。しかし、やっと準備が出来てご連絡すると「あ、もう決まりました」と言われることも…。
一般媒介を選んで賃貸経営がうまくいっているオーナーは、仲介業者とのお付き合いも上手です。空室が出たときに力を入れて募集してもらうためにも、ある程度決まった業者に継続的に依頼をして、信頼関係を築くことが大切だと思います。
これらの不動産会社の心理を踏まえ、専任媒介が向いているケースと一般媒介が向いているケースを考えてみましょう。これは、オーナーサイド、物件状況の両面から考える必要があります。
オーナーサイドを基準にして考えると、どこか一社としっかりタッグを組みたい方、本業が別にあり賃貸経営にあまり時間が取れない方、お部屋の仲介だけでなく管理も頼みたい方、賃貸経営に慣れておらず物件力の向上方法が分からない方などは、一般媒介より専任媒介が向いていると思われます。
逆に、色々な不動産会社に仲介を依頼したい方、不動産会社との打ち合わせに時間を割くことができる方、自主管理で入居審査も自分でできる方、自分で物件力を向上させることができる方などは一般媒介の方が向いていると言えますが、これに加え、一般媒介オーナーとして成功するのに欠かせない重要な要件がもう一つあります。それは、不動産会社からの連絡に迅速に対応できるということです。仲介営業担当者は面前のお客さまに全力対応していますので、すぐに連絡が付き結論が早いオーナーを優先したいと考えています。仲介営業担当者にとっては、今申し込みが入っておらず紹介可能な状態なのかを確認したり、家賃などの条件交渉がすぐにできたり、入居申し込みした際に自分が一番手だと確認できることがとても重要です。専任媒介であれば、すぐにオーナーと連絡が付かなくても他社に先を越されるということはありませんが、一般媒介の場合は自分が一番かどうかを常に気にしているのです。
今度は物件状況を基準にして考えてみると、空室期間が長くなったり複数の空室がある物件は、専任媒介にしてパートナーを一社と決め、タッグを組んでしっかり対策を立てていくのが良いと考えられます。たくさんの不動産業者の募集看板が付いているにも関わらず長期間にわたって多くの空室がある物件を見かけることがありますが、それは一般媒介で失敗している典型的なケースで、そういう物件こそ専任媒介にして一社とじっくり対策を考えるべきです。やる気のある仲介営業担当者がいて、リフォーム提案や設備変更、募集方法の見直しなど物件力向上のアイデアを持っていたとしても、一般媒介のままではその提案が自社の利益に繋がらない恐れがあります。仲介営業担当者も会社員ですから、そのような仕事に貴重な時間を使うことはできないというのが本音なのです。
逆に、空室が出ると周辺の仲介営業担当者が時間を置かずに決めてくれる物件は、競争力があるので一般媒介でも問題ないと言えるでしょう。
賃貸物件を巡る状況は変化が激しく、人気があった物件でも、築年数が古くなったり周辺にライバル物件ができたりして競争力が落ちてしまう場合があります。また、オーナー自身やご家族の状況も時とともに変化していくと思います。専任媒介か一般媒介かも、一度決めたらずっと同じではなく、状況の変化に応じて見直してみるのも一案です。
伊部尚子
公認不動産コンサルティングマスター、CFP® 独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。
※2024年7月29日本編更新時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。 ※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
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